Saturday, June 21, 2008

The Rose

 1981年に、OlympiaにあるThe Evergreen State Collegeに留学した時、最初入った大学の寮があまりに騒がしかったので、逃げ出して下宿しました。当時は大学院に留学生がまったくおらず、日本からの留学生は大学全体でも私だけということもあって、みんなが日本のことを聞きに毎晩のように部屋に押しかけてきました。その頃は、日本がどこにあるのかすら知らないアメリカ人がほとんどでした。アメリカに戦争で負けた東洋の小国(と日本人自身も考えていた)が、アメリカの自動車業界を席巻しつつあった時代で、日本に対する関心が、急速に高まっていたからです。

 下宿先はForth & Thomasの角にあったピンクの家(今は立てかえられて緑になっていますが)でした。いま住んでいる所から自転車で5分くらいのところです。高齢だった家主さんの母親のための別棟だったのが、その母親が亡くなって私が借りたわけです。正面の大きなガラス窓から、通りを挟んで教会の大きな樅の木が見え、その木々の間に氷河を頂くレニエ山が美しく輝いていました。

 宿題は分厚い本を最低3日に一冊は読んでレポートしたり、教室で議論したりというものだったので、それをこなすのが精一杯の日々を送っていました。授業のない時は、毎日部屋にこもりっきりで、日本から持ってきたソニーのポータブル・ステレオ・ラジオをオールディズに選曲をあわせかけっぱなしにしていました。

 The Roseという歌を初めて聴いたのはその頃のことです。この歌を聴いた瞬間、なんとも云えず感動して、自然に涙が出てきたのを覚えています(今でもうっかり聞くと涙が出ますので、人前では聞かないようにしています。非常に涙もろくって、「のだめカンタービレ」のような漫画チックなテレビドラマや宮崎駿作品を見ても涙するくらいです)。歌のタイトルや正確な歌詞を知りたくても、当時はインターネットといった便利なものがありませんでしたから、人に聞くか図書館で調べるしか方法はありませんでした。そのためにも、ある程度、歌詞が分からないといけない。この歌がかかるたびに歌詞を筆記して(ヒアリング能力がなかったので1回ではとてもディクテイトできなかったんです)、メロディを覚え、下宿のルースおばさんに聞きましたが、分かりませんでした。それでも当時行っていた教会の友人に聞くと、それは“The Rose”といって、映画“Rose”の主題歌だと教えられました。でも、レコードを買いに行くにもお金がなかったし、テープに録音するにも、テープを買うお金もなかったので(本当に貧乏だったんです)、歌詞だけを書いてもらって大切に持っていました。


(Westlife-The Rose)

 “Rose”は1979年にBette Midler主演で制作された映画です。1960年代に酒と麻薬におぼれながらも歌い続け27歳で夭折した女性ロックシンガーのジャニス・ジョブリンへのオマージュ映画です。”The Rose”は、その映画のエンディングソングとして使われました。それを都はるみが「愛は花、君はその種」というタイトルで、日本語でカバーし、宮崎駿製作・高畑勳監督作品の「おもひでぽろぽろ」のエンディングとしても使われました。

 1960年代はベトナム反戦運動、キング牧師を中心とした公民権運動、世界的な学生運動、そしてヒッピーなどが起こった時代で、より良い社会への変革が強く求められた時代でした。自由、平等、愛など人間について、深く考えた時代でもありました。いや、今もそれは変わらないですが、異なっているのは、それをみんなが真正面から取り上げ、素直に語り、自分たちの信念に基づいて突っ走った時代でした。余談ですが、インターネットもこの時代に反権力のひとつの手法として考案され発達してきたものです。

 少し長くなりますが、歌詞の原文を載せておきます。中学校で習う程度の易しい英語で、こんなにも優しく、力強い表現ができるんです。人の心を打つ言葉とは、本来、優しいもののはずですから、「やさしい」のは当たり前のことですね。


Some say love it is a river
That drowns the tender reed.
Some say love it is a razor
That leaves your soul to bleed.

Some say love it is a hunger
An endless, aching need
I say love it is a flower,
And you it's only seed.

It's the heart afraid of breaking
That never learns to dance
It's the dream afraid of waking
That never takes the chance

It's the one who won't be taken,
Who cannot seem to give
And the soul afraid of dying
That never learns to live.

And the night has been too lonely
And the road has been too long.
And you think that love is only
For the lucky and the strong.

Just remember in the winter
Far beneath the bitter snow
Lies the seed that with the sun's love,
In the Spring becomes the Rose

(作詞・作曲:Amanda McBroom)

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