Sunday, May 24, 2009

新型インフルエンザに見られる日米の違い③

 今回の新型インフルエンザに関する日本のマスコミ報道には二つの傾向が見られます(通常からですが)。

 一つは「事実のつまみ食い」です。これは子供が親にものをねだるときに使う論理と似ています。

 ちょっと知恵が回る子は、「お母さん、ipodって知ってる。パソコンから音楽とか映像をダウンロードして聞いたり、見たりできるねんよ」
 「知ってるよ。それがどうしたの」
 「今、学校でものすご~く流行ってんねん。あれに外国映画を入れて、英語の勉強してんねんて。ものすごう、英会話やとかの勉強になるらしいわ」
 「へえ、そうなん。まあ、そうかも知れへんねぇ。テープレコーダーに映像がついてるみたいなもんやからねぇ。お母さんらの時代と変わってんやねぇ」

 もし、子供が、「お母さん、クラスのみんな、ipod持ってんねん。私にもこうてぇな」と言うと、母親はきっと、「みんな、て誰のこと。持ってない子もいるでしょうが」というでしょう。そして、母と娘で買う、買わないの話し合いになり、結局買ってもらえないことになりかねません。

 少し知恵が回る子と書いたのは、「みんな」と言う言葉を使わず、それでいて、いかにも学校中の子供たちがipodを持っているような印象を母親に与えるような話し方をしたからです。つまり、嘘ではないが、真実でもない。学校の一部の子供たちの間で流行っているという事実を、「(の)一部の子供たち」という表現を抜いて話しているだけです。これは「一部の子供たち」という事実をつまんできただけです。でも、他の多くの子供は持っていない、という事実が一方にありますが、これについては、「知恵が回る」からあえて言わないだけです。

 今回の日本のマスコミの報道には、この知恵の回る子と同じレトリックがありました。新型インフルエンザにはごく初期の段階から鳥インフルエンザとは異なり低毒性であることが議論されていました。ニューヨークでもテキサスでもワシントン(州)でも、この議論は新聞やTVで公平に報道されました。それにも関わらず日本の報道機関(これらの州に総局や支局、派遣員を持っている)はそのことには触れず、いかにも、全米で大騒ぎしているような論調を続けていました。アメリカではどの州でも新型インフルエンザが蔓延しているというような表現は一切とりませんでしたが、日本のマスコミの記事を読んでいると、なんだか、ニューヨーク中が大騒ぎになっているような印象を受けたものです。

 この書き方は現在の報道にも現れています。例えば、「関西圏で300人以上の新型インフルエンザ患者が確認された」という表現がそうです。これを読んだ人は、「えっ、300人も」と感じるかも知れません。個人からすれば、300人というのは大きな数字からです。でも、「関西圏では2,999万9千600人以上の人は新型インフルエンザの感染事実なし」(関西圏の人口を3千万人として)と報道すれば、人は「えらいこっちゃ」などとは思わないでしょう。

 アメリカでは、戦争や大統領選挙の場合には、このような事実のつまみ食が往々にしてあります。しかし、それは彼らが自分たちが正しいと思うアメリカの国益に合致するように世論を作って行こうとしているからです。そのための世論操作として事実のつまみ食いはおろか、事実を歪曲して伝えることもあります(だからその辺は割り引くか他のソースからの情報と比較検討してみる必要があります)。しかし、それ以外のものでは、それほどひどくはありません。少なくとも、市民生活に関する報道はできるだけ事実に即し、全体像が市民に伝わるように公平な報道を心がけているように思えます。 

 もう一つの傾向は、「論旨が終始一貫していない」(あるいは、一本筋が通っていない)ということです。

 アメリカでも新型インフルエンザ騒ぎが起こった当初は、ワシントン州で確認された新型インフルエンザ患者はメキシコへ旅行して帰国した人だ、というような記事がありました。日本では、カナダからニューヨーク経由で帰国した人が新型インフルエンザに感染していることが確認されたと報道されていました。これは日米同じです。でも、日米のマスコミの論調には大きな違いがあります。

 日本ではつい3日前にも、関西からの帰京(東京に帰った)人が新型インフルエンザ患者と確認された、と報道されました。でも、アメリカでは、新型インフルエンザ患者がニューヨークから帰ったとかテキサスから帰った人だという報道は一切ありませんでした。せいぜい、「海外旅行の事実なし」(つまり、国内旅行はあったかも知れない)という表現だけでした。これは記者たちがその人がどこに国内旅行したか、国内のどこから戻ってきたかをつかんでいないのではなく、書かないだけです。それはそれを書けば、ニューヨークやテキサスで風聞被害が出る可能性があることをマスコミが知っているからに他なりません。そして、今回の豚インフルエンザは通常の季節性インフルエンザと同じような低毒性のものですから、別に書く必要もないのです。

 メキシコや日本は他国だから別にどのような風聞被害が立とうがアメリカには関係ありませんが、アメリカ国内でそのような被害が出れば、その地域の経済が落ち込み、ひいてはアメリカ全体の国益に反するから書かないのです。

 その意味で、アメリカの新聞は、事実のつまみ食いや歪曲があるにしても、一本筋が通っています。自分たちの視点がはっきりしていて、そこから事実を眺め報道している(ですから、事実のつまみ食いや歪曲もありえる)と言えるでしょう。

 しかし、日本のマスコミは自分たちの視点を明確に持っていません。八方美人ならエンターテイメントとして楽しくもありますが、無節操に批判的だから始末が悪いわけです。

 新型インフルをあおるだけあおっておいて、そのうちに、地域経済や関連企業が被害を受けているなどということを真顔で書きかねないのが日本のマスコミです。自分たちがその原因を作っておいて、おかしくなったのは、政府や自治体の無策、あるいは過剰な反応をした市民のせいだと責任をなすりつけます。新型インフルエンザがおさまるり始めると、新型インフルエンザ患者のことをあまり書けなくなりますから、今度は、必ず、このような地域経済の落ち込みや今回の新型インフルエンザの空騒ぎに対する批判記事やニュースがマスコミに登場することでしょう。

 一昨日(5月22日)、久しぶりにザ・オリンピアン(The Olympian)に「豚インフルエンザ」の記事が小さく載りました。ご参考までに掲載しておきます。


サースン郡では5名の豚インフルエンザを確認

 (ワシントン)州衛生局幹部によれば、サースン郡(オリンピアを含む郡)では現在5名の豚インフルエンザ患者が確認されている、これは、ワシントン州全体で確認されている516人の豚インフルエンザ患者に含まれる。
 水曜日(5月20日)には新たに23人の豚インフルエンザ患者が確認されたと発表された。
 キング郡では総計344人の患者が発生した。スノーホーミッシュ郡で107人、クラーク郡で7人、サースン郡とヤキマ郡で各5人、スポケーン郡とワットコム郡で各4人、キツァップ郡とメイソン郡で各3人、スカジット郡とアイランド郡で各2人、そしてダグラス郡とルイス郡、グレイズ・ハーバー郡で各1人である。

 地図は私が作成したものです。ワシントン州は日本の半分くらいの広さがあります。例えば、サースン郡とヤキマ郡は直線距離にして約200キロ離れており、その間には3千メートル級のカスケード山脈が走っています。

 オリンピアやシアトルは今日も夏日。気温は摂氏約23度で、空は快晴。明日はメモリアルデーの式典が各地で行われます。

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